“Making non-emissive [6]cycloparaphenylene fluorescent by simple multiple methyl substitution”
Tomoki Kato, Daiki Imoto, Akiko Yagi*, Kenichiro Itami*
Chem. Sci. 2025, Accepted. DOI: 10.1039/D5SC04694G
D3 加藤智紀くんのドデカメチル[6]シクロパラフェニレン合成の論文がChemical Science誌に掲載されました。
おめでとうございます!
以下、論文の概説と加藤くんのコメントです。ぜひご覧ください!

概要
本論文では、多重メチル化[6]シクロパラフェニレン(CPP)の合成に初めて成功し、メチル基がCPPの性質に与える影響を明らかにしました。
メチル基は従来、『機能性に乏しい官能基』だと考えられてきました。しかし、今回合成した12個のメチル基をもつ[6]CPP(Me12[6]CPP)は、[6]CPPとは大きく異なる構造的性質をもつことがわかりました。
Me12[6]CPPはオルトキシレンユニットで構成されており、立体障害により全てのメチル基がCPPリングの外側を向いた構造が得られることが予想されます。実際にそのような生成物 (上図のout) が得られましたが、それに加えて一つのユニットがCPPリングの内側に向いた異性体 (上図のin) が生成するという予想外の結果が得られました。さらに、外向き異性体・内向き異性体はどちらも蛍光性を示し、非蛍光性であることが多い[6]CPP誘導体の中では異例の性質をもちます。 今回見出した『CPPにおけるメチル基の導入効果』はCPP誘導体の機能設計に新たな指針を与えるものであり、今後の応用展開が期待されます。
第一著者の加藤くんのコメント:
外向き異性体 (out) は塩化メチレンには溶解せず、クロロホルムに対しても溶解性が低いことには非常に苦労しました。この分子の合成を始めた当初は塩化メチレンを用いて精製操作を行っていました。上記の内向き異性体 (in) のNMRチャートしか得られず(しかも、溶液中でoutに異性化したものをわずかに含む)、構造がわからずに頭を抱えた記憶があります。構造決定のために単結晶を調製し、初めてinの構造が確認できた時は驚きとともに感動しました。その後は精製方法を見直した結果、outも得られるようになりました。今回の研究で面白いのは、従来『機能性に乏しい官能基』だと考えられてきたメチル基というシンプルな置換基が、CPPの構造や光物性を想定以上に劇的に変化させた点です。outという最安定構造だけでなく、inという準安定な異性体が室温下でも得られるということも面白いと思っています。両異性体ともに蛍光性を示すことがわかり、これまで「光らない」ケースの多かった[6]CPP誘導体の常識を覆したことも特筆すべき点です。 今回の研究を通じて、一見大きな影響がなさそうな置換基でも性質に劇的な変化をもたらすことがあるという、化学の面白さと奥深さを改めて実感しました。
ヤギコメント:
加藤くんの苦労コメントにはなぜかないのですが笑、異性化障壁を実験的に求めるところが大変だったんじゃないかなと思います。夏休みにもかかわらず3時間弱睡眠で何日間もNMRに張り付いて実験して、ボロボロになりながら本当によく頑張ったと感じます。D3の最後を駆け抜けるにあたり、論文採択は加藤くんの強く背中を押してくれたと思います。伊丹さん・井本くんを含め本研究でお世話になった全ての方に感謝致します。特に物質科学国際研究センター化学測定機器室の尾山さん・山田さんにはNMR測定で多大なご協力いただきました。ありがとうございました。
